北九州炭坑節

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唄収録日  :2016/5/22
唄記述日  :2016/5/23


*歌詞*

「月が出た出た 月が出た ハ ヨイヨイ
 三井炭鉱の上に出た
 あんまり煙突が高いので 
 さぞやお月さん 煙たかろ サノヨイヨイ

 香春岳(かわらだけ)から見下ろせば
 伊田の竪坑が真正面
 六時下がりの様ちゃんが
 ケイジにもたれて 思案顔」


*記述*

 福岡県の三井田川炭鉱伊田抗の選炭唄が元唄です。
 選炭というのは石炭とそれ以外を分ける作業のことで、採炭(石炭を掘り出す作業)や背負い、南蛮(地上に石炭を運ぶ作業)と一線を画し、女性が主体で作業をしていました。つまりこの唄は日本の労働唄としては珍しく、女唄なのです。

 明治から大正時代にかけて流行した「ラッパ節」(演説歌ではなく、その後流行したお座敷唄の方)に曲調が似ていると言われます。これは大正時代に石炭成金が博多の花街で豪遊した際に、流行していた「ラッパ節」を聴き覚え、炭坑に持ち帰り広めたためではないかと目されています。そしてラッパ節に影響を受けた選炭唄がおそらく再度花街に持ち込まれ、itunes及び田川市のホームページにあるお座敷唄(ウエムラマツコ氏)になったのではないでしょうか。
 同じ頃に田川市の小学校教師である小野芳香氏が、それぞれの人が唄っていたばらばらの選炭唄をまとめ、1932(昭和7)年、後藤寺検番(現在の田川市西区)の芸姑衆による「炭坑唄」の初のレコード化へと進んでいったのです。

 一番の歌詞は有名ですが、演説歌師の添田啞蝉坊氏が作った「奈良丸くずし」の替え歌であると言われています。元は東京の江東工業地帯の話が、遠い九州の筑豊まで持ち込まれたことになります。
 二番の歌詞は文字通り炭坑の情景を描いた歌詞です。「様ちゃん」は愛人の男性の事で、六時に昇降機で入坑しようとするところを唄っています。(性に大らかな時代に唄ができたためか、色に絡んだ歌詞が多数存在します)

 戦後、復興の際に進駐してきた連合軍が各地の炭鉱に駐屯し唄い広め、ラジオの電波に乗ってから次々とレコード化され、盆踊の唄として全国各地で広まっていきました。
 その最中に「三井炭鉱」は「三池炭鉱」と唄われたりしていました。これは、三池炭鉱が日本最大の炭鉱であったこと、伊田坑と同様に三井財閥が保有していたこと、進駐軍が駐屯していたこと、三池炭鉱にも唄が広まって新作唄や替え唄がいくつも作り出されていたこと等から、誤りが生じたと見られます。


*参照*

『日本民謡辞典』 1972 仲井幸二郎・丸山忍・三隅治雄 東京堂出版

『日本民謡大事典』 1983 浅野健二 雄山閣

ラッパ節 - YouTube

ヴァリアス・アーティストの「日本民謡大観 九州篇(北部)2」を iTunes で

炭坑節 / 炭坑節のふるさと田川市

民謡編<288>炭坑節(中) - 西日本新聞

添田唖蝉坊・奈良丸くずし/土取利行(弾き唄い)Naramaru /Toshi Tsuchitori - YouTube


*試聴(広告)*
 喚声点の処理が見事です。ここでは民謡関係者の唄を意識して取り上げないようにしているのですが、つい選んでしまいました。